「あきれた。明確に釈明せよ」「こんな環境行政に寒けがする」─市民生活の根幹をなす「水問題」での長崎市の対応に十八日、批判と怒りの声が渦巻いた。データ改ざんに次ぐデータ隠しまでが明らかになり、同日開かれた市内での二つの市民集会は、市の隠匿体質を問い直す弾劾の場に早変わりした。「これで果たして、われわれは安心して水は飲めるのか」。ここ数年、幅広い環境問題に市民の関心が高まっているなかでの今回の事態は、行政に対する市民の信頼関係を根底から失墜させるという、あまりにも大きな代償をあがなうことになりそうだ。
長崎市役所従業員組合(柴田勇輝委員長)主催の「水質検査データ改ざん問題と民主主義」のシンポジウムには、七十人が参加した。
一九九〇年一月十八日の本島市長(当時)襲撃事件をきっかけに、自由と民主主義について考えようと始まった同シンポ。パネリス
トは柴田委員長のほか中村照美弁護士、前原清隆長崎総科大助教授の三人。
中村弁護士は改ざん発覚後、助役名で各部局の所属長あてに出された服務規律に関する通達の中に「『秘密を守る義務』を十分認職する」の項目があったことに触れ、「改ざんを明らかにした市職員の行為は公務員の本質を貫いた行為であり、もしこの職員に向けられたのであれば的外れ」と指摘。「データは住民のための資料であり市幹部の資料でない。住民の視点に立って守秘義務の範囲を決めるべき」と主張した。
前原助教授は「われわれには世代の存続に責任があり、その責任に誠実だったのが改ざんを告白した職員。(逆に)責任を放棄したのはだれか? 情報を隠すことは悲劇の始まりと実感した」と述べた。柴田委員長も「伊藤市長就任以来、不祥事が相次いでいる。県の産業廃棄物建設計画など国や県の施策に言いなりになったり、市民の命を顧みない市政運営がされている」と厳しく批判した。
会場からは「組織的な改ざんでは」「県が水質調査地点周辺に予定している産業廃棄物処理施設建設計画を進めるための工作」「オンブスマン制度を」などの行政批判が相次いだ。
市民団体「西彼杵半島の海山川を守る会」(山下弘文代表世話人)が長崎市筑後町の県教育文化会館で開いた講演会「廃棄物処分場と飲み水の汚染を考える」には、百五十人が参加。講演した元東京都公害研究員で、水環境の問題に詳しい梶山正三弁護士(54)は「発覚した総水銀の値は異常。(近くの井戸水などは)できるだけ飲まない方がよい」との考えを示した。
梶山氏は同日朝、長崎市松崎町の民間産廃処分場周辺で河川などの水質を測定。その結果、水質汚染の指標となる電気伝導度は通常の三─十七倍の値を示した。処分場の敷地内では約二百倍に達した水たまりもあったという。
電気伝導度は電流の流れやすさを示す物質定数で、水中にさまさまな物質のイオンが混じっていると上昇する。
講演会では、同処分場周辺に住んでいる男性が「井戸水のにおいがひどい」と訴える場面もあった。講演後に会見した梶山氏は「処分場に近づくほど電気伝導度が高くなっている」と指摘。「産廃処分場による汚染と行政のデータ隠しは全国的な問題だが、隠せば隠すほど問題は重大化して住民の不安が募る」と述べ、速やかな情報公開を求めた。
梶山氏の指摘に対して長崎市水道局浄水課は「井戸水については分からないが、長崎市の水道原水には電気伝導度に異常はなく、飲む分には全く問題はない」としている。
長崎市弁天町、主婦
田代 雅美さん(47)
納税者に対しきちんと謝罪の上、正しいデータを情報公開すべき。情報公開と守秘義務をはき違えている。
西彼長与町、会社員
山崎 寛さん(47)
市は情報隠匿に罪悪感がない。生命にかかわる重要な問題。(司直は)刑事責任を追及してほしい。
長崎市三重町、無職 岩瀬 博さん(61)
行政の隠匿体質に怒りを感じる。市長と民間産廃棄業者との癒着もあり得る。三重地区にも一般廃棄物埋め立て処分場がある。同地区の水質検査も改ざんされているのではないか。
長崎市北栄町、会社員 横田 五一さん(61)
市の環境行政にはあきれた。市民の生命や財産を守ることに無関心すぎる。今後、市民感晴を逆なでにした行為に対し警告発していきたい。
長崎市深堀町四丁目、無職 峰松 巳さん(72)
市民の生命をないがしろにした行為。市は民間産廃棄業者の手先では。病巣はまだまだ深い、市民も厳しく監視していく義務がある。
長崎市大園町、主婦 川上キクエさん(65)
水質基準など市民には分からないと、楽観的に考えたのでは。水道行政に不信感が募る。
長崎市柳谷町フリーアルバイター 雑賀 良介さん(24)
公務員の事なかれ主義に端を発している。市は命にかかわる問題にむとんちゃくすぎる。今後、市の発表するデータは信用しない。
長崎市水の浦町、会社員 橋本真由美さん(30)
市民の税金を使った水質調査である以上、私たちにも情報を知る権利がある。もっとほかにも隠していることがありそう。市内部で改ざんや調査結果をチェックするのは難しく第三者機関に調査をゆだね監視体制を厳しくしては。
長崎市矢上町、歯科技工士 坂田 誠一さん(27)
あきれた。改ざんしたり、隠したりする職員が市民の命にかかわる環境行政を運営しているかと思うと寒けがしてくる。どうせほかにも隠していることがあるに違いない。「詳しく再調査する」と釈明するのだろうが、それにも税金が使われることを忘れないでほしい。行政システム自体がおかしいのでは。