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問いと答え年金保険料は?

[問い] 国民から毎月集める保険料の使われ方、積立金の使われ方はどうなっているのか。 政府は、その収支状態を発表すべきではないのか(鹿児島・山里常雄)。 国民年金受給者の月3万、4万円以下の人たちの割合は?(神奈川・松本俊介)

公 文 昭 夫

[答え] 住専処埋から今大きな社会問題になっている厚生省の岡光事件に至るまで、国民の税金を政・財・官が よってたかって食いものにしてきた腐敗政治の構図。いっぽうで逆進性そのものという消費税やその税率 アップをおしつける。そのことに国民は大きな怒りを感じています。お二人の問いには、まったくこれと 同根の疑問と怒りがあるのではないかと思います。  厚生省年金局の調べ(1995年度見込)によれば、厚生年金と国民年金の積立金だけでも118兆 7693億円に達しています。積立金とは要するにそれだけの「黒字」になっているということです。  それなのに、自民党単独政権から猫の目のように変幻自在する連立政権にいたるまで、一貫して政府 がとりつづけた年金政策は、「国には金がないから」と称して、年金額の切り下げ、保険料値上げ、 年金支給開始年齢の引きのぱし、収入のない学生からの保険料取り立てなど、内容後退の連発でした。  しかも2年後(1999年)には、さらに年金額を引き下げる「一元化」と称するリストラが待ちかま えているのです。  いったい私たちの保険料や税金は「どうなってるんだ」と怒りがわくのはとうぜんです。

年金財政の仕組み

 まず私たちの保険料ですが、いちばん大きな厚生年金(約3270万人が加入)でみてみましょう。  厚生年金の保険料は、法律で毎月の賃金の17.35%(建前は労使が半分ずつ負担)と決められて います。30万円の賃金をもらっている労働者の場合、月約2万6000円払っています。この保険料 と使用者負担分、そしてわずかな国庫負担(全収入比8%程度)を合わせた一年間の総収入は、約33 兆円(94年3月末)となっています。  この収入のすべてが年金として支出されているならまだわかりますが、支出総額は約26兆円なのです。 厳密にいうと、この支出も、実際に「年金」としての支出は約13兆円だけで、のこりは国民年金財源の 不足分や、JR年金などの赤字の穴うめ、事務費などに支出されているのです。このこと自体、財政の 仕組みとして問題ですが、なによりも総収入から総支出を差し引いた約7兆円が「黒字」として「積立金」 にくり入れられるという仕掛けになっているのです(社会保険庁調べ・社会保障統計年報1995年版)。  このような財政方式は、厚生年金だけではありません。公務員の共済年金、国民年金にも同様の方式が とられ、その結果として、累積された積立金がさきに述べたように118兆円をこえる状態になって いるわけです。  あきれかえる話ですが、厚生省の資料によれば、「この積立金(厚生年金をはじめ全公的年金制度の 合計)は、2000年には196兆円、2010年には231兆円、2030年には376兆円になる」 と推計しています(社会保障制度審議会年金数理部会資料・1994年)。こんな馬鹿げた財政方式を とっている国は、先進資本主議諸国のなかでも日本だけです。

低い水準の老齢年金

 こうした財政の仕組み(財政方式)がつづくかぎり、労働者をはじめ国民の年金額が改善される保証 はありません。  とくに年金額の低いのが国民年金の老齢年金です。いま約982万人の人たちが支給されている国民 年金の老齢年金額は月平均3万7000円といわれています。問題は、その内訳です。月3万円以下の 年金しかもらっていない人が約200万人(全体の20%)、月4万円以下でみると627万人(全体の 64%)にもなるのです。  たいへん悪質な話ですが、政府の公式に発表する資料(たとえば厚生白書や統計年報など)には、こう した内訳はいっさい掲載されません。ここにあげた内訳の資料も、95年7月の衆議院予算委員会で日本 共産党の委員が要求し、しぶしぶ提出したものなのです。   

積立金の使われ方

 一事が万事、御質問者の言われるとおり、保険料の使われ方、積立金の使われ方など、国民の知りたい 情報は「霧の中」という非民主的運営に終始しています。  積立金の使われ方ですが、「財政投融資計画」の有力な原資にされていることだけははっきりして います。大蔵省の資料(1995年度予算)によれば、95年度の財政投融資の総額は約48兆円、その なかの約15%、7兆5000億円が厚生年金・国民年金の積立金から貸出されています。年によっては 財投原資の25%を占めたりしています。  何に使われるかというと、大きな部分にゼネコン型公共事業、ODAなど経済協力基金などがあります。 その他の積立金は、すでに投資されたものやいわゆる住専の母体行などに預託されるなど、いずれにして も政・財・官が勝手気ままに使っているというのが実情です。     (くもん てるお・年金実務センター) 出典:「経済」1997年3月号(新日本出版)