「しんぶん赤旗・日曜版」 1998年3月22日 健康ライフ
1日10杯のススメ
お茶が効く

  「お茶でも、まあ―杯」と勧められ、ひとくち。 甘みのなかに苦みと渋みが広がって、思わず「おいしい!」。最近、この甘み、苦み、渋みの成分が健康にいいことがわかってきました。中国から茶の種子を日本に持ち帰り、茶の効用を説いた鎌倉時代の禅僧・栄西はいいました ‘茶は養生の仙薬,と。    上野 敏行記者


 茶を飲むという歴史は古い。中国では紀元前から。日本でも平安時代からです。それも仙薬、つまり不老長寿の薬効があると利用されてきました。当時は、茶葉を臼でひき、湯を注いで飲んでいました。
 主役は渋み
 話は現代に移して、疫学結果です。緑茶を飲む量が多い地域では、がん、とくに胃がんの死亡率が非常に低い。緑茶を飲む景が多い人は、がんのほか、脳卒中や心臓病など成人病による死亡率も低い、てした。
 緑茶の何が効くのか,緑茶の特殊な成分で、渋みのカテキン類、苦みのカフェイン、うまみのテアニンがあります。
  「ここ十年ほどの間に、それぞれの成分に多様な薬理作用かあることがわかってさました」というのは、長年、薬学の立場から茶を研究している静岡県立大学薬学部の富田勲教授です。
 「その昔、禅僧たちが注目した作用は、カフェインの覚醒作用でした。お茶を飲むと、眠気がとれ、頭がすっきりするというので、修行に用いられたんですね。最近、テアニンにも脳神経の働きを活発にさせる作用があることがわかりました。さらに、渋みの"もと″とだけ考えられていたカテキン類が、実は、緑茶の薬理作用の。"主役"だったこともわかってきたんです」
 悪玉退治
 一九八三年、日本薬学会で興味深い発表がありました。百五十種類の食品のうち、細胞の発がんをもっとも強く抑制(突然変異を抑える)するのが、茶葉に多量に含まれるカテキン類だったからです。
 その発がん抑制作用の強さには、共同研究者の一人でもあった富田教授自身も驚くほどでした。
  ほ乳動物ではどうか。緑茶の抽出物は、ラットの胃がん発生を抑えた! ほかの施設の報告も含め、九種類の臓器で「たいへん有効」と出ています。
  カテキン類の薬理作用は、まだあって、動脈硬化の"もと"になる悪玉コレステロール(LDL)を減らし、血圧の降圧作用も明らかになっています。人の実験でも確かめられています。緑茶で、がんも脳卒中も心臓病も抑えられる!です。
 がんを発生させ、老化を促進させ、成人病など多くの病気の元凶になっている活性酸素(細胞や細胞中の遺伝子を傷つける有害な酸素)。カテキン類の効用の中心は、この活性酸素の働きを。"中和"する「抗酸化作用」だったのです。
 のむ目安
 さて、茶の効用を考えたら、一日に緑茶をどのくらい飲めばいいのか。
 疫学や実験の結果から、富田教授が勧める目安は、普通の湯飲みで煎茶一日七〜十杯(七百_g〜一g)です。一gの煎茶で、カテキン類を七百_c程度摂取(煎茶二十c以上を使う)できます。
 茶葉ごと飲む抹茶や粉末煎茶では、お湯に溶けない多くの有効成分をまるごと摂取できるので優れた方法であるとも。粉末煎茶五c(カテキン類六百五十_cで、一gのお茶を飲むのと同じ効果が得られます。新茶の季節には、お茶の葉をころもに入れたてんぷらを。
 富田教授はアドバイスします。
 「日ごろから、お茶を飲む習慣を取り入れることで、確実に健康増進に役立つことでしょう。ただ貧血症の人は悪化させることがあるので注意したほうがいいかもしれません。いそがしい日でも、落ち着いて、お茶をじっくりと味わう。健康には、そんなゆとりも大事ではないかと思っています」
    こんなにある緑茶の薬理作用
緑茶の成分効能
カテキン類
(茶タンニン)
発がん抑制作用
がん転移抑制咋用
細胞の突然変異抑制作用
抗酸化作用
血中コレステロールおよび血圧
 上昇抑制作用
抗菌作用
抗ウイルス作用
虫歯予防
口臭予防
カフェイン 疲労感や眠気の除去
利尿作用
ピタミンCストレス解消
カゼの予防
ビタミンB群糖質、アミノ酸などの代謝促進
γ−アミノ酪酸
 (ギャバ)
血圧降下作用
フラボノイド血管壁の強化、口臭予防、抗酸化作用
多糠類血糖低下作用
フッ素   虫歯予防
ビタミンE 抗酸化作用、老化防止
テアニン 血圧降下作用、鎮静作用